一心不乱に宿題の採点をする
さぼっていた分かなりたまっている
持ち帰りは絶対イヤだ
ものすごい集中して、宿題と答案をにらめっこ
すごいスピードで赤ペンがすべる
突然、赤ペンを持っていた右手の手首をグイっとつかまれる
え?なに?と振り返ると
「ちょっと、さっきから何回も呼んでるのに~!
先生、左手の指!血が出てる!」
見てみると、親指と人差し指がザックリ切れていた
血がタラタラ出ている
あ、紙で切っちゃったのか~
しかし全然気づかなかったな
「シンデレラひかえてるんだから、気をつけてよね~」
・・・私の心配ってより、シンデレラを演じる私の心配ね・・・
絆創膏をはって止血
そこで、は!と気づく
もしかして宿題に私の血が・・・
調べてみると半分目くらいから私の血がテンテンと・・・
私の血が付いた宿題を返された子供たち・・・
なんか、呪いみたいで恐いよな~
赤ペンのインクが漏れたと説明しておくか~
ごまかせるかな?
しかし、
指を切っても意外と気がつかないものね
私が鈍感なのかな?
私は高校2年生の頃、身長が150cmぴったりだった
まわりの子たちがぐんぐん身長が伸びていくなか
私の身長はいっこうに伸びずかなり焦った
焦った私が手を出したのが「身長がグングン伸びる本」だった
買うのはかなり恥ずかしかったが、そんな事気にしてられない
内容は要するに適度な運動と充分な栄養、特にカルシウム
の摂取で身長は確実に伸びる!というものだった
私は本に書いてある事を忠実に実行した
「運動」は部活で毎日しごかれているのでいいだろう
「カルシウム」は牛乳が1番効率よく摂取できると
書いてあったので毎日コップ2杯は必ず飲んだ
ある日、ドラッグストアでカルシウムウエハースという物を
発見し、牛乳を飲みながらこれを食べる事にする
たまにお腹を壊したりもしたが、かまわず続けた
半年が過ぎた
私の身長は全然グングン伸びない!
なぜだ?何がまちがっているんだ?
そう思い悩んでいる頃、ふと新聞を読んでいると
「成長ホルモン」という文字が目に入った
成長ホルモン・・・
これだ!!私に足りなかったのはこれなんだ!
「成長ホルモン」なんと響きのいい言葉だろう・・・
私は早速、成長ホルモンを打ってもらおうと決意する
朝、制服姿で家を出るが、
行き先は東京の大学病院
学校はずる休み
「成長ホルモン」のためだ、仕方ない
大学病院に到着
受付に置いてあった問診票に記入を始める
困ったのが、受診したい科という項目・・・
成長ホルモンは何科?
一覧を見ていると内分泌科というのがあった
これかな・・・チェックを入れて提出する
しばらくすると名前が呼ばれ、
どこどこへ行ってくださいと言われる
そこへ行くと、受付でこれに記入してください
と、一枚の紙を渡される
身長・・・体重・・・その他もろもろ・・・
症状の具体的内容・・・
症状ね~、背が低い?う~ん・・・
その部分は白紙で提出
しばらくして、名前が呼ばれ診察室に入る
「こんにちは、今日はどうしました?」
「はい、あの~・・・」
なんか急に恥ずかしくなって言い出しずらい・・・
「あの・・・せ、成長ホルモンって・・・」
「ん?ごめんなさい、よく聞こえなかった、
もう一度言ってもらえます?」
「せ、成長ホルモンってありますよね・・・」
先生、ちょっととまどった様子
「はい・・・ありますね・・・」
「あの、それを打ってはもらえないかと・・・」
しばし沈黙・・・
「あの、○○さん、成長ホルモンを打つ方って
いうのは、なんらかの原因で成長ホルモンが正常に
分泌されない方に限られていて、そういった方は
○○さんよりもっともっと低身長なんですよ
○○さんは確かに身長が平均に比べかなり低いですが
病的というわけではありません
成長ホルモンの投与はできませんね」
あ・・・そうですか・・・
この先生なぜかここから少し話しがずれていく
「大体、身長が低いっていうけど、織田信長って
知ってるよね?」
「はい」
「信長は小さかったけど天下統一を成し遂げたんだよ
信長は若い頃はうつけ者って言われてたけど、
それはただ周りを油断させる作戦で・・・」
織田信長についての講義が約5分続く
「とにかく身長なんか気にしないで、
大事なのは中身だから!」
「はい、失礼します」
診察終了
会計で6200円を払い、病院を後にする
自宅に帰り一息つく
ふ~
6200円を払って私が得たもの
「織田信長は背が低かったが天下統一を成し遂げた」
という情報・・・
そんな事知ってるよ・・・
約2ヵ月後、
母から、「あんた、○○大学病院で6200円って何?」
と尋ねられる
区役所から半年に一度、家族全員の病院の通院歴が送られて
くるのだがそれをみたらしい・・・
「なんか・・・おなかが痛くて・・・」
「○○さんに行けばよかったじゃん?」
(近所の内科)
「お休みだった・・・」
「ふ~ん」
ふっ
織田信長ね~ ・・・
「だから~、なんでそこまでやる必要があんの!」
いきなり私の不満からはじまる
シンデレラ当日は
メイク&胸を作る&すね毛処理を命じられたからだ
(腕の毛は元々なかったので免除された)
別に私たちは劇団ではない!
なんで、ちっぽけな個人塾の先生が
たかが演劇のために
お化粧して胸を作ってすね毛を処理しなくちゃいけないの!
っていうか、すでに女装の粋に入ってるよ!
「別にいいじゃん~、メイクぐらい
当日だけなんだからさ~
キレイにしてあげるからさ」
「そうだよ、メイクぐらい・・・
すね毛だってすぐ生えてくるよ」
「ほんと、メイクぐらいでツンツンしちゃって
これだからツンデレラは・・・」
ほ~・・・
言ってくれるじゃない
別に私、シンデレラ辞めてもいいんだけどな~
そうしたら困るのあなたたちだよ~
ここまできて代役はきついよ~
「大丈夫だよ、○○センセならキレイな
シンデレラになれるって」
・・・別になりたかないよ・・・
「イベントの申し込み、すごい数きてるよ
みんな期待してるんだって」
・・・そんな期待されても・・・
「だからさ~、なんでメイクが必要なの~?
別にそのままでいいじゃん
胸だって、すね毛だって、見てる人
誰も気にしないよそんなの・・・」
「どうせやるんなら徹底的にやらないと!」
なんでそんな燃えてるの・・・?
あなたたち変だよ・・・
「センセのシンデレラのできによっては、
生徒がどっと増えるかもしれないんだからね!」
そんな事あるわけないだろ・・・
30分経過
私の体調に異変が
スタミナ切れか・・・
なんか疲れてきた
なんかもうどうでもいいや
好きにしておくれ
こ~ゆ~のを根負けって言うのかな
「わかった、もうメイクでもなんでも
好きにしていいよ・・・」
完全になげやり状態
あなたたちの情熱に完敗
シンデレラは私の手を離れた・・・
今日は中学1年生と数学のお勉強
教室のドアをガラリと開ける
みんながなんか盛り上がってる
「なに~?どしたの?授業はじめるよ~」
「あのね~、○○がさ、先生と腕相撲したら絶対
勝てるって言ってるの」
と元気な女の子の声
「はあ?」
「先生ちょっとやってみてよ~」
「え~、やだよ~」
「やってくれたらちゃんと勉強するから~」
やらなくても勉強しろよ・・・
教室のみんなが「やってやって」とうるさい
雰囲気に負けて
「しょうがないな~、一回だけだよ」
その瞬間 「イエーイ!」
と教室はいっきにヒートアップ
コロシアム状態になり決闘の雰囲気
軽くひねって授業に移ろう
いざ決戦
私と○○君のまわりをみんなが囲んでいる
そ、そんなに興味があるの?
「ちょっと、見えない~、前の人座ってよ」
誰かが言うと、前の子がさっと座る
おいおい・・・
きみ達いつもはそんなにまとまりないだろ~
決戦の舞台は整った
私と○○君が対峙する
○○君の手を握る
え!私の手より大きい!私の腕より太い!力強い!
瞬間に悟った
確実に負ける
○○君の手をぱっと離し、
「やっぱヤメ~!授業はじめるよ、席ついて~」
当然、大ブーイング!
「なんでやめんの!一回やるって言ったじゃん~!」
「そうだよ~、ちゃんと理由説明してよ」
などなど苦情殺到・・・
苦しまぎれに
「お、大人には大人の事情があるの・・・」
意味不明
「大人の事情って何?」
「先生、負けるのが怖いの?」
「ちゃんと納得いく説明してよ~」
「だいたい、なに?大人の事情って?」
なんか、追い込まれてる・・・
「お、大人の事情は大人にならないとわからないの!
きみ達は席についてテキストを開く!」
かなり強引に授業に持っていく
みんな文句タラタラ不満そうに席につく
ようやく授業開始
みんなごめんね・・・
でもね、先生にも一応面子ってものがあるの
中学一年生に腕相撲で負ける訳にはいかないのよ
みんな大人になったら分かるから・・・
やれやれ・・・
綱渡りの毎日だよ・・・
電車が走る ガタゴト ガタゴト
私は眠くて ウトウト ウトウト
つり革につかまりながらこっくりさん
はっ!と目を覚ます
ここはどこ?
あ~、よかった
乗り過ごしてなかった
しかし、なんか違和感が・・・
気のせいか・・・ま、いいや、もう一眠りしよっと
前を見ると運よく座れた制服姿の女子高生が熟睡中
口が半開きになっている
ふふっ(笑)、電車の中で寝るなよ~
みっともないな~(誰かさんも今の今まで寝てたような~)
ちらっと女子高生のふとももが目に入った
ふとももの間になんかキラキラしたものがはさまってる
何だろう?
え、えー!!
これ、私の舐めてたのど飴だ・・・
私の口の中に・・・のど飴が・・・ ない!!
何? 瞬間移動?
ううん、ちがうよ~
私がこっくりしてる間に口からぽろりと・・・
あなたのふとももにぼとりと言うわけね
私の方が100倍みっともない・・・
さてどうしよう
飴を取ってあげたいけど
さすがに女子高生のふとももには
触れないしな~
そうだ!知らんぷり!
いけないいけない
かりにも教育に携わる者のはしくれ・・・
だいたいシンデレラがいけないんだ
シンデレラなんて引き受けたから
その練習で喉がつかれて
のど飴をなめることになったんだから
シンデレラ!絵本の中に隠れてないで
責任とって!
ほとんど、現実逃避状態・・・
ふ~
やっぱり素直が1番ね
彼女の肩をポンポンとたたく
目を覚ました彼女に
「あの、足になんか落ちてますよ」
「きゃ!何これ!」
のど飴です
「なんか飴みたいですね、
ティッシュ使います?」
と差し出すと、
「ありがとうございます、
ほんとすみません」
「いいえ・・・」
こちらこそほんとにすみません・・・
電車が止まる
私の降りる駅だ
電車をおりようとする私に
再び、「ありがとうございました」と彼女
「いいえ~」
ほんとにごめんなさい・・・
そしてさようなら
「人間失格」だっけ? 太宰治くんが書いた本
読み返してみよっかな・・・
だから、ごめんなさいって~
みんなそんな責めないでよ~
そんな冷たい目でみないでよ~
毎年、塾では7月のはじめに、
新入生歓迎と新たな生徒獲得のために
近くの区民センターの大きな部屋を借りて
イベントを開く
だいたい親子合わせて二百人位が参加する
ちなみに去年は地元の楽団に頼んで小さなライブ的な事をやった
曲は子供向きに「となりのトトロ」や、
スタジオジブリの曲が多かったように記憶している
そして今年・・・
「シンデレラ」をパロディにしたものを
スタッフが演じる事になった
会議がはじまった
まず、肝心のシンデレラ役
「シンデレラって言ったら、ツンデレの
○○先生(私の名前)しかいないじゃん」
へ、うまいこと言うね~ってちがう!
だから、なんで!!私はツンデレじゃないし、
シンデレラは女性だから!!
別の先生
「そうだよ、せっかくその体格に生まれたんだから
こ~ゆ~時に生かさないでどうすの?もったいない・・・」
だったらあなたの身長と私の身長、交換しておくれよ・・・
「私ぜったいやんないよ~!
シンデレラなんだから女性スタッフがやればいいじゃん」
「女の子が普通にシンデレラやってもおもしろく
ないじゃん、男の先生がやるからおもしろいんだよ
特に○○先生だったら男か女かわからなくて
よけいおもしろいよ」
全然おもしろくない!!つまんない!!
シンデレラなんてやった日にゃ、私のあだ名は一生「ツンデレ」だよ
ましてや、友達に知られた日にゃ・・・
「とにかく私は絶対やらないよ!こんだけ人がいるんだから
誰かやってよ~」
シーンと静まりかえる
この・・・
とにかく私はやらない
一度決めた私の意思はとても固い
私にだってプライドというものがある
だいたい、部屋を借りるお金があるなら給料上げろ!
「あ、先先さ、貧血と栄養失調で倒れたじゃん
それさ、リアルにシンデレラっぽいよ
リアルシンデレラだよ」
「ぶっ」思わず噴出す!
「疲労」で通していたのに
いつのまにかばれてる・・・
「とにかく絶対ヤダ!」
私は鉄の意志を持つ男
約1時間、
「会議は踊る、されど進まず」状態が続く
みかねたチーフスタッフ(塾長の奥さん)が
「とりあえずさ、今までの間、○○先先の名前しか
あがってないんだよね
会社から寸志としていくらか包むから
引く受け手くれないかな~?」
・・・「え・・・寸志ですか・・・」
シンデレラ・・・
それは子供たちに夢を与えるすばらしい物語
その主役をやらせてもらえるなんて
とても光栄なことだ
ツンデレ?
言いたい奴には言わせておけばいい
鉄の意志?プライド?
とっくの昔に捨てたよ
「あの、私やってもいいですよ・・・
みんな困ってるみたいですし」
「ありがとう!じゃ、よろしくね」
「はい!」
会議終了
お金なんて関係ない
私はただ、子供たちに勉強の楽しさを知ってもらう
ために必死に清い心でシンデレラを演じるだけ
ふっ・・・
寸志ね・・・
今日は中学2年生の女の子にマンツーマンで英語の授業
さてさて、授業開始
「こんばんは」と軽く挨拶しながら席にすわる
なんとなく腰をトントンと叩いていると
「先生、腰痛いの?生理痛?」
といきなり先制パンチ!!
「はいはい・・・」と軽くあしらうと
「今、ほんとはドキっとしたでしょ?」
と続ける彼女・・・
「はい、とりあえずこの3問、何も見ずに解いてみて
先生への質問もなしでね」
「は~い」
ちょっとして、「できたよ~」と私に解答を見せる
3問全部△ おしい
簡単なケアレスミス
「おしい、もうちょっと考えてみて
簡単なミスだから よく問題よんでね」
「は~い」
ちょっとしてから、
「ダメだ、先生わからないよ・・・もう無理」
「全然考えてないでしょ、簡単なミスだって」
「ダメ、全然わかんない」
はあ~・・・
「じゃ、一緒に解いてくよ、この英文よんで」
彼女がベラベラっと英文を読む
「じゃ、この動詞はどう変化すんの?」
「あ、わかった なるほどね 簡単じゃん!」
ふっ・・・
「だから、簡単なミスだって言ったでしょ
よく読めばわかるって・・・」
「はいはい」
はいはいってな~
無事3問正解し、ポイントをしっかり説明し、
一息ついてると、
「先生って、まつげ長いね」
「そお?」
「うん、女の人みたい」
「そうかね?じゃ、次いくよ~」
「先生ってちょっとツンデレなとこあるよね
私は他の人とは違うの、みたいなとこ」
どこがだー!!私がツンデレならみんなツンデレだ!!
むしろ、キミの方がツンデレだろ!!
「はい、おしゃべりは終わり、次やるよ~」
私の声を無視し、
「なんか高飛車な女っぽい」
まだ言うか
「やる気ないなら授業終わりにするよ!」
「わかったよ、次ね次・・・」
こうしてなんとか授業を脱線しようとする彼女を
なんとか勉強の道にひきもどす「作業」を
繰り返しながら
街の片隅にある、ちっぽけな個人塾の夜は更けてゆく・・・
さて、授業に行こっと、スタッフルームを出て
廊下を歩き教室にむかっていると、なんだか
廊下がぐんにゃり曲がってってきたぞ~?
あれれ~
あ、私がふらついてるのか~
痛!壁にぶつかった
なんか、眠くなって・・・きた・・・
目が覚めるとそこは病院
なんか点滴がささってる
いったい私の身になにが!?すると、通りかかった看護師さん
「あ、○○さん、目がさめましたね、
今、先生呼んできますね」
しばらくして女医さん登場
何?私、死んじゃうの?
「気分はどうですか?」
「はあ~、まあまあです」
「運ばれてきた時の事覚えてます?」
「なんか、ふらふらして~、それからは記憶がないです」
「○○さんは、職場で倒れて救急車で運ばれてきました
検査の結果、軽い貧血と・・・」
と・・・ってなによ~怖いじゃない!
「はっきり言って軽い栄養失調です」
クックック、栄養失調って(笑)
「笑い事じゃないです!」
こわ! 「はい」
でも、この飽食の時代に栄養失調って・・・ククク(笑)
「三食きちんと食べてます?」
「はい」
「今ウソつきましたね」
ばれてる・・・
「本当は?」
敬語じゃなくなってる・・・
「一食食べるか食べないかです」
「ダイエットでもしてるの?」
「いいえ」
「じゃ、なんで食べないの?食欲ないの?」
「いや、これといって理由は・・・」
「好きな食べ物は?」
「おかゆと冷奴です」
あの先先、「おかゆと冷奴」って答えにため息と
落胆したような顔するのやめてくださよ・・・
それから、懇々と食生活の大切さをお説教され
「点滴終わったら帰っていいですよ
飲むカロリーメイトを2週間分出しときますので、
無くなったらまたきてください」
「はい」
やれやれ・・・
なにやってんだか・・・
手元の先生からもらった「食生活の手引き」
を見ながら、死ぬのはしかたないけど、
「栄養失調てのはな~・・・」
まあ、私らしいといえば私らしいけど・・・
このブログを見てくれた人みんなにすごいアドバイス!
「ごはんは3食きちんと食べよう!」
じゃないと女医さんにしかられるよ!